大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)831号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

論旨は、原判決は上告人主張の示談解決が本件懲戒処分の当否判定に斟酌せらるべきものとしてもと判示しながら少しも斟酌しておらず、原判決は理由に齟齬があると主張するものである。

しかし、弁護士を懲戒する権限は所属弁護士会(弁護士法第五八条)及び日本弁護士連合会(弁護士法六〇条)に属し、弁護士法六二条の訴訟で裁判所が判断するのは弁護士を懲戒するかどうかではなく、弁護士会又は日本弁護士連合会がした懲戒処分の当否である。従つて、懲戒処分があつた後に懲戒請求者と被請求弁護士との間に示談が成立したとしても、かかる事実は懲戒処分の当否とは関係がなく、従つて裁判に際し斟酌されるべき事実ではない。所論の懲戒処分後における弁護士会費の納入についても同じである。原判決の理由とするところは右と異るけれども、上告人の主張を容れなかつたのは結局正当であつて論旨は理由がない。

同第二点及び追加上告理由一について。

論旨は、原判決が他日上告人が他の弁護士会に入会しようとする場合に考慮することを相当とするとした示談解決の事実は、本件退会命令の当否判断に際しても考慮されるべきものである旨を主張するのである。

しかし、退会命令後の示談解決が退会命令の当否に関係がないことは前述のとおりであつて論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は、原判決が上告人に対する退会命令を過酷でないとしたのを非難するのである。しかし、原判決が確定した上告人の行為は著しく弁護士の信用を害し品位を失うべき行為であつて退会命令は少しも過酷ではない。論旨は理由がない。

同第四点について。

論旨は原判決は憲法二二条に反するというのである。しかし、退会命令があつても再び入会し弁護士業務を行うこともできないものでもないから、退会命令を是認した原判決が職業選択の自由をうばうとの上告人の主張は、その前提において理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例